脚やせからの良いご提案!
卵を大量に食べた場合と、そうでない場合について、体の中でおこっていることを再現し、比較してみればよいのである。しかし、この男性は高齢であり、会話もままならない状態であったことから、モルモットがわりにするわけにはいかなかった。そこで研究者たちは、比較の対象として自分たちの体を使って実験をすることにした。
まず彼らは、普通の食生活をしばらつづけたあと、問題の男性とともに、いろいろな検査
をうけた。その後、約三週間、それまでの食事に加えて今度は毎日、五個ずつの卵を食べつづけた。その直後、再び同じ検査を行い、結果をくらべたのである。
分析の結果、研究者たちとは異なく、この男性は、肝臓をへて腸に排出されるコレステロールの量が通常の二倍をはるかにこえていることがわかった。
もっと正確に説明すると通常、コレステロールの「一部」が胆汁という消化液の原料となる。ところがこの男性の場合、一部ではなく、食事としてとったコレステロールのほとんどすべてが胆汁に変換されていたのである。胆汁は単なる消化液であるため、多すぎて困ることはない。そのためこの男性は、いくら卵を食べても健康でいられたのである。
これは何かの病気の結果としておこったものではなく、あくまで体質と考えられる。
この貴重な研究から、コレステロールが体外に排出される割合には大きな個人差、つまり体質の違いがあることがわかったことになる。同じ食事をしていても、血管にたまるかどうかは、人によって大きく異なるというわけである。
病気になくやすい体質も、親から子へと遺伝子によってうけつがれていく。そこで気になるのは、肥満の体質が遺伝するかどうかである。もし一〇〇パーセント、遺伝だけできまるものであれば、いくらやせる努力をしても無駄ということになる。
肥満の遺伝について考える前に、わかくやすい例としてコレステロール値が高くなる病気、
つまり高脂血症をとりあげてみたい。特に、血液中の悪玉コレステロールの上昇が問題で、放置すれば心筋梗塞になってしまうというものである。
高脂血症では、食事療法をうけ、体重を厳格にコントロールすると、一D一コレステロールの値が平均して約四〇二アシリットルほど改善する。たとえば検査値が二〇〇二アシリットルある人では、薬を使わなくとも一六〇二アシリットルくらいまで改善するということになる。
一D一コレステロールの正常範囲は一三〇二アシリットル以下のためへもう少し下がれば完全に正常なのであるが、遺伝子の異常によって正常値との差が生じていることになる。
このように多くの病気では、遺伝子異常と生活習慣の両方が、種々の割合でかかわっている。
肥満についても、「二五個の卵」の話のコレステロール値と同様、個人差が大きく、同じ物を食べていても、太る人と太らない人がいる。したがって肥満には、遺伝子異常と生活習慣の両方がかかわっていることがわかるのである。
最近、同じ肥満でも、病的といえるようなタイプもあることがわかってきた。一〇〇キログラムをこえるような高度の体重増加があり、かつダイエットなど、やせるための方法がどれも無効というものである。しかも心筋梗塞、高血圧、糖尿病、がんなどの病気にかかりやすいという共通した特徴もあって、何か特殊な遺伝子異常を思わせる。
ところが、この病的肥満をもたらす決定的な遺伝子異常が、なかなか発見できずにいる。肥満に関連した遺伝子異常は次々に見つかってきているが、どれもこの特殊なタイプの肥満との関係が希薄なのである。
アメリカのウィスコンシン大学では、最新の方法を駆使した徹底的な研究が行われている。
彼らは、極端に体重の多い人だけをえらんで、その遺伝子を分析するという方法をとることにした。極端な例を選べば、遺伝子異常も高頻度に見つかるはずというのである。そのかいあって、いろいろ興味深い発見がなされつつある。たとえば遺伝子異常をもつ女性では、三二人中二九人が高度な肥満であったという。一方、男性では二三人中一三人だけが高度肥満だった。
この結果は、少なくとも二つの興味深い事実をしめしている。つまり、遺伝子異常がある人の肥満には男女差があることと、遺伝子異常があっても全員が肥満になるとはかぎらないということである。
残念ながら、これが問題の遺伝子異常なのかどうか、まだ断定はできていない。
「太くやすい遺伝子」ならぬ、「やせにくい遺伝子」というのもある。
たとえば脂肪細胞では、交感神経の刺激をうけると脂肪が分解されるという変化がおこるが、その際にβ3アドレナリン受容体なるものが働く。この受容体の遺伝子に異常があるとダイエットをしても、やせにくい。
京都府立医科大学の研究グループによれば、肥満女性八八人に、三ケ月間のダイエットをしてもらったところ、この遺伝子に異常がない人たちは平均で八キログラムはどやせたにもかかわらず、異常のある人たちは五~六キログラムほどしかやせなかったという。
この遺伝子異常は日本人の二割くらいに認められるため、異常というよりは体質の一つと考えた方がわかりやすい。
ほかにも類似の遺伝子異常がいろいろ研究されているが、異論のあるものも多く、まだ確立したものとはなっていない。また、それらの異常があるからといって特に太くやすいわけでもなく、肥満遺伝子というには疑問もある。
肥満に関する遺伝子研究からうまれた最大の発見は、レプチンという物質の存在である。一種のホルモンだが、ほんとうの役割がまだわかっていないことから、いわば謎の物質ともなっている。
発見のきっかけは、奇妙な実験であった。
「肥満のネズミ」と「普通のネズミ」の血管をつないで、互いに血液が流れるようにしたところ、後者が次第にやせていき、最後には栄養失調で死んでしまったというのである。肥満のネズミの体内には、健康なネズミをやせさせてしまう「何か」があったことになる。
その後、物質の正体が明らかになく、レプチンと名づけられた。問題は、「肥満のネズミ」の体内にレプチンがあり、ながら、なぜやせなかったのかという点である。
つい最近、その理由が明らかになった。普通、ホルモンや栄養素が細胞内に入り込むには、
受容体とよばれるたんぱく質の手助けが必要となる。ところが肥満ネズミの細胞には、そのレプチン受容体がなかった。
正確にいえば、受容体をつくる遺伝子に異常があり、レプチンが働かなかったのである。
では「普通のネズミ」の方はなぜ死んだのであろうか。
理由はまだ解明されていないが、「肥満のネズミ」の体内でレプチンの効きが悪かったため、
尋常ならざる量のレプチンがつくられていたのかもしれない。
レプチンは人の体内にもあって、脂肪細胞でつくられている。脂肪細胞の数がふえてくると何らかの信号が発せられ、レプチンの分泌がうながされるようになっているらしい。レプチンは、脳の視床下部(後出)にある摂食中枢に作用して食欲を抑制し、同時に褐色脂肪細胞に働きかけて脂肪燃焼を促進する。どちらも、肥満を解消する方向に働いているところがポイントだ。
遺伝子に異常があると肥満になるらしいのである。
この説が正しいかどうかはまだよくわからないが、もし人を肥満から守るための仕組みであるとすれば大変、面白い。
「人の体は基本的に太るようにできていて、レプチンが必死にくいとめている」ということになるからである。
なぜか女性の方が平均で三倍くらい血液中のレプチン量が多い。しかも女性の場合、排卵後に上昇するといわれている。
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